2011年5月7日土曜日

看護師不足に悩む手術現場、担当者ら不安拭え?

 2010年度の診療報酬改定では、難易度の高い手術を中心に手術料がアップし、病院関係者を喜ばせたが、当の手術部門に勤務する看護師らの表情はさえない。全国的な看護師不足が叫ばれる中、慢性的な人手不足に頭を悩ませているからだ。「人員を増やせずに手術件数だけ増えたら、安全を確保し切れない」―。手術現場の担い手たちは、そんな不安すら感じ始めて
いる。(兼松昭夫)

 横浜市金沢区の横浜市立大附属病院(631床)。市内唯一の特定機能病院として高度医療を担う同病院では10年4月現在、手術待ちの患者が760人に達していたことが明らかになった。手術を担当する看護師が不足し、12室ある手術室の一部が稼働できないことが原因だ。

 手術待ちの患者が特に多いのは整形外科300人、泌尿器科120人
など。これらの診療科では、初診から治療開始までに2か月以上かかるケースもある。

 同病院によると、看護師の不足は地方独立行政法人に移行した05年ごろから、病院全体で深刻化し始めた。新たに人材を採用しようにも、地域全体で看護師不足が顕在化し、苦闘が続いた。
 看護師の「離職率」は、手術部門で高い傾向だ。一方で、地域内の手術の rmt アラド戦記
ニーズは年々増え続け、09年度の実施件数は初めて5000件を突破した。

 現在では、手術室1室当たり3.9人が交代勤務しているが、短時間勤務の職員や新人もいるため、12室をフル稼働させるのは難しい。このため11年度には、手術室の看護配置を8人増やすことにした。
 看護師不足を解消しようと、同病院では人材の確保策を強化。11年度には病院全体
で、例年より多い90人近い新規採用にめどが付いた。

■高い専門性、変則的な勤務…
 手術部門での看護師不足は、手術を手掛ける多くの病院に共通の悩みだ。
 数十種類ある手術器具の中から、必要なものを即座に判断して執刀医に渡す「器械出し」や、手術前後の患者の身体管理などを担当する「外回り」。これ以外にも、手術室のスケジュール
管理や、診療科間の手術の調整など―。

 ちょっとしたミスが患者の命を左右しかねず、手術室看護師たちは常に強い緊張状態にさらされる。この部門に特有の高い専門性を求められるため、病棟からの応援で人手を補うのは難しい。
 ところが、病棟に比べて夜間や休日の勤務が発生しにくく、手術部門に配属されると看護師の収入はむしろ減少するケ
ースが一般的だ。一方で、予定外の手術が入るなど勤務が変則的なため、この部門は当の看護師からも敬遠されがちだ。
 看護師を十分に配置できず、時間外の手術で器械出しを医師が行っている病院すらあるという。

 「(病棟勤務に比べて)勤務時間が長い」「手術以外の雑用が多い」―。横浜市立大附属病院が10年8月、手術室看護師を対象に行ったア
ンケートでは、処遇改善を訴える声が並んだ。
 これを受けて同病院では、手術後の清掃の外部委託を拡大するなど、業務負担の軽減に乗り出した。11年度には、手術部門の看護師を対象に「手術室奨励金」の支給も始める方針だ。
 医学?病院運営推進部の渡辺昇職員課長は、「重症患者さんを優先して治療するため、現在でも医学上の問題はないが、手術待
ちの不安を解消できる体制を確保したい」と話している。

■診療報酬改定に翻弄される手術現場
 手術の現場はこれまで、2年ごとに行われる診療報酬改定のたびに翻弄されてきたと関係者は口をそろえる。
 現在の仕組みでは、看護師の配置を病棟に手厚くすると病院の報酬が増えるが、手術室や外来にはこうした人員配置の基準はない。このため
、看護師を病棟に回した方が病院の経営にはプラスになる。

 06年度の診療報酬改定では、病棟の入院患者7人に対し看護師1人を配置した場合(「7対1看護」)の報酬が大幅に引き上げられた。病棟での手厚い看護ケアを評価する狙いだったが、大学病院など一部の有力施設が看護師の囲い込みに乗り出し、深刻な看護師不足にあえぐ民間病院が急増した。手術室
看護師らは、「しわ寄せは現場と患者に及んだ」という思いがぬぐえずにいる。

 10年度の診療報酬改定では、手術をすると算定できる「手術料」が軒並み引き上げられた。病院関係者らは「画期的な改定」とそろって評価するが、手術室看護師の胸中は複雑だ。
 スタッフの増員を伴わずに手術件数だけが増えれば、リスクが高まりかねないからだ。都
内の大学病院に勤務する手術室看護師は、「手術室が回ろうが回るまいが、収益を増やために『とにかくやれ』という施設がほとんど」と話す。

 全国の手術室看護師らが加入する「日本手術看護学会」は、急性期病院の手術室の業務量やスタッフの人数などの洗い出し調査を06年に開始。手術室を運営するには一室当たり平均4人の看護師を配置し、交代勤務
させる必要があるとの結果をこのほどまとめた。

 同学会の菊地京子理事長は、「施設の病床規模や手術の難易度によって、必要な看護師数は違う。ほかの学会のデータベースともリンクさせて数値を精緻化したい」と話している。

■「手術部門こそ急性期病院の要」
 全国から患者が集まる東京都江東区の癌研有明病院(700床)。06年度の診療
報酬改定で「7対1看護」が導入された直後には、同病院でも病棟の看護配置を重視したが、現在では手術部門の体制強化に方針転換した。「手術部門は急性期病院の要」(山口俊晴副院長)との考えからだ。

 同病院では、09年6月には手術の開始時間を午前8時に早め、一室当たり一日に実施できる手術件数を増やした。さらに10年1月には、手術室を1室増やして
15室体制を整えた。
 手術件数は右肩上がりを続け、10年には7000件に迫る見通しだ。

 手術件数の増加に対応するため、手術部門がスタッフの増員を病院側に要求。現在では看護師54人が交代勤務し、手術待ちの期間は前年から最大で半分近くにむしろ短縮した。看護師らのモチベーションを高く保つため、「手術介助手当」も支給している。


 手術件数の増加は、収益増をもたらした。体制強化により人件費は増えたが、ベッドの稼働率がアップして収益を押し上げた格好だ。山口副院長は「急性期病院として生き残ろうとするなら、病床数を減らしてでも手術室の体制を強化すべきだ」と話す。

■養成課程で手術看護学ぶ機会を
 同病院の中央手術部門に勤務する多田由香師長は、
看護師養成の教育プログラムに手術業務を組み込むべきだと訴える。現在のプログラムは病棟勤務が前提で、養成段階では「1件程度の手術見学のみ」(多田師長)。

 実際の業務を知らないため、卒後の進路の選択肢に手術部門はそもそも含まれにくい。こうしたことも、手術現場の看護師不足の一因になっていると多田師長は感じている。

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引用元:アトランティカ rmt

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